
プロローグ
この世界には、いくつもの国がひしめき合っていた。
冒険者たちはダンジョンを踏破し、莫大な報酬を得る。
その富は国に流れ込み、城が築かれ、兵が養われ、やがて国力を支える礎となった。
人々は力と欲を求め、土地を奪い合い、幾度となく争いを繰り返した。
だがその陰で、世界の七大国には語り継がれる伝説がある。
――過去の英雄によって封じられた、SSS級ダンジョン。
「災厄の眠る地」と呼ばれるその場所は、決して踏み入れてはならぬ禁忌の領域と恐れられていた。
それでも、冒険者たちは挑み続ける。
己の力を磨き、時に職を変え、運命を切り拓くために。
戦士、魔法使い、僧侶、盗賊――努力次第で、どんな道も選び取ることができた。
ただひとつ、例外がある。
――契導師(けいどうし)。
契導師は、生まれながらにして選ばれし者。
異界より神獣や英雄を呼び出し、契約を結ぶその力は、一国の運命をも左右すると言われる。
その存在は、まさに“奇跡”と呼ばれた。
だが、その奇跡を授かりながら、一度として何も呼び出せぬ者がいた。
その名は――カイ。

辺境の小さな村、カリブ。
幼くして両親を失い、村の長老に育てられた少年だった。
村人たちは彼を温かく見守った。
それは彼の力によるものではない。
かつて、両親がこの村を救った――その恩義ゆえだった。
剣を振れば鈍く、魔法を唱えても光らない。
唯一授かった契導師の力すら、何も応えなかった。
それでも、カイは諦めなかった。
小さな祠の前で、毎晩のように手を合わせ、いつの日か、自らの中に眠る「力」が目覚めることを信じていた。
そして――村の片隅に、ひっそりと暮らす老いた賢者がいた。
手の甲に不可思議な紋章を刻み、古びた杖を手放さぬその人を、人々はただ「長老」と呼んだ。
夜更け、村が眠りに落ちたころ。
彼の杖の先に、淡い光がそっと灯る。
――誰も知らぬ、その光の意味を。
――そして、その光が、カイの運命を照らし始めることを。